カルチャアの雑日記

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彩り

2020.8

就活中は気分的にもウイルス的にもアルバイトを続けられる状態でなかったので、四月から金の入ってくる機構が止まっていた。八月の頭に就職活動が終わった。最終的に就職する企業を決定したのは土曜だ。次の月曜に企業へ意思決定の連絡をするのを待たずして美容院へ行き、金色のインナーカラーを入れた。明るい髪が差し当たりの最優先事項だったからだ。直後、続けていたアルバイト先が派手な髪色を禁じていることに気付いた。海外の鳥のような色は内側だけなので、中に隠せないかと考えたが、上手くやる術もなく、とりあえず元のアルバイトにすぐ戻るのはやめた。

代わりに、普段のアルバイト先の企業と同じグループに属する会社が募集している、単純作業のアルバイトに申し込んだ。髪色の指定がなかったからだ。八時間の作業を一ヶ月のうちの四日間行うことにした。

 

繁華街の路地にあるビルに入っていくと、幼児向けの教材を製作する会社に辿り着いた。アルバイトで来た旨を伝え、五十代くらいの女性たちが向かい合って並ぶデスクのうち、空いている場所を案内された。席に座ると、リーダー風の女性から給料や休憩時間などの事務的な説明がなされ、作業の指示が与えられた。

指示は例えばこのようなものだった。

「黄色い紐を二十センチに四百本切ってください」

「赤丸のシールを見本と同じように四つ貼ったものを二百五十セット作ってください」

一つの作業には、三十分で終わるものもあれば四時間かかるものもあった。最初の五分ほどで手の動きだけ慣らしてしまえば、残りの二十五分や三時間五十五分は、頭の中では何をしていても全く問題はなかった。私は効率の良い紐の切り方やシールを貼る位置のパターンをさっさと覚え、あとは八月以前の行動の内省や、九月以降の卒業論文の計画など、その場に存在しないことを色々と考えていた。

時々、何も考えることがなくなると、頭の奥の方から「僕のした単純作業がぁ」と桜井和寿の声が聴こえてきた。Mr.Childrenの「彩り」の歌詞である。そう考えないように努めてはいたが、言ってしまえば、この作業はあまりにも単純で退屈だった。四日間のアルバイト期間のうち少なくとも二日目までにこのことに気付いてしまえば、残りの期間が絶望的になることを見越し、時間の経過が遅すぎる!という嘆きが言葉になるよりも前に桜井和寿を呼び出すことで、退屈を自覚するまでの時間を延長していたのである。

私の切った紐や貼ったシールが、この世界を回り回って、まだ出会ったこともない人の笑い声を作っていく──紐やシールや折り紙やストローは、確かにカラフルではあった。が、黙って手を動かすだけの作業が明らかにモノトーン調であることは否めなかった。

 

とはいえ、私は過去のことを何度も思い出したり、未来についてグダグダと考えたりすることが嫌いではないような気もした。比較的すぐに四日間が過ぎたからだ。

最終日の、残り十五分ほどで行った最後の作業で、リーダー風の女性に「指示と違う」と初めて責められた。振り返れば、その女性は他の五十代女性たちに対しても、少しのミスに強く当たっていたような気がする。私はまず謝り、続いて、言われた通りにやったつもりだったが先程の説明では分からなかったと弁解した。すると、女性は多少ヒステリックになりつつ、

「前の子にも同じ説明をして、同じミスをされたから、そうかもしれないわ」

と言った。それで時間になったので、私は退屈な四日間から解放され、もう来ないであろうビルを後にした。海外の鳥のような色を持っても、籠に入れられたままでは甲斐がなかった。九月の頭に白髪染めでインナーカラーを黒に戻し、次の週から元のアルバイトに戻った。