サカナクション「モス」解体
今回は、満を持してサカナクションの話、
と言いつつ、テーマは「マイノリティ」と「作為性」。
サカナクションのこと全然分からない人たちにも、楽しみ方を知って欲しいなという思いでプレゼンします!
ファンじゃない人たちからしたら、Mステでよく分からない演出をしたり、テレビラジオで難しそうなことを言っているサカナクションには抵抗があるかもしれない。
でも、そのよく分からん!という「違和感」には理由がある。彼らはわざと違和感のあることを沢山やっているんだ。それはなぜか?
深読みすればするほど面白い、サカナクションの世界へようこそ……!!
今回解説するのは、今年6月にリリースされたアルバム「834.194」に収録されている「モス」!
この曲、実は歌詞やミュージックビデオの表現によって「マイノリティ」の立場の主張をしながらも、緻密なマーケティング戦略で「マジョリティ」受けを狙って、かなり作為的に作られているんだ……。
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「モス」の面白さを味わうために、次の順番で楽しんで欲しい↓
①Apple MusicやSpotifyなどで「曲だけ聴く」
②「歌詞を見る」
③YouTubeで「ミュージックビデオを見る」
①まずはとりあえず曲だけ聴いてほしい。YouTubeを開くのはちょっと待ってくれ!!
なぜか?
曲→歌詞→ミュージックビデオという順番は、実際に今年「モス」が解禁された順番だ。それを是非体感して欲しい、その方がおもろいので
Spotifyで「モス」を聞く
https://open.spotify.com/playlist/37i9dQZF1DWVV3reXxjGNI?nd=1
…………………
聞いてくれたか!?
結構アップテンポで楽しげな曲ですよね、
例えばフェスとかで、全然この曲知らない人が聞いても一緒に盛り上がれそうな感じがすると思う。
実は、この曲、ドラマの主題歌としても使われていました!今年7月から放送されていたフジテレビの『ルパンの娘』っていうドラマ、深田恭子が主演のやつ。
「テンション上がる感じの曲調」「ドラマのタイアップになるほど表向きの曲」という印象を持っていただければOKだ、
では、徐々に解体していきますよ。
②歌詞
「モス」歌詞↓
http://j-lyric.net/artist/a04d6c9/l04c4e3.html
…………………
見てくれたか!?
明るいメロディに対して、歌詞は蛾やマイノリティのことを歌っている。
蛾って何だ?
タイトルのモス=mothは英語で「蛾」の意味だ。
そう、この曲は、「繭」を「割って」も蝶ではなく「蛾になる」人たちについて歌っているんだ、そして彼らこそ「マイノリティ」。
マイノリティには、もちろん性的マイノリティや民族的マイノリティなど様々な意味もある。
ボーカルの山口一郎は、それらを踏まえた上で、さらに、
「一般にウケないものが好きな人」や、
「他人になかなか受け入れてもらえないような考え方を持った人」たちのことも、
マイノリティという言葉で表現しているんだ。
自分が大好きなものはマイナーであればあるほど、皆からいいね!と言われるものと「比べても負け」てしまう、
周りから批判の「雨に打たれ」、やっと開いた「羽が折り畳まれて」しまうかもしれない。
これはサカナクションというバンドの抱える葛藤を表した曲でもあると思う。
なぜなら、サカナクションの5人は、自分たちの本当にやりたい音楽が現代では受け入れられづらいという「マイノリティ」の意識を抱えているからだ。
彼らの曲の中には
・「新宝島」や「アルクアラウンド」のように大衆受けする曲=【マジョリティにウケる曲】
・シングルの売上はあまり良くなかった一方でラジオで山口一郎が泣きながら流すほど思い入れの強かった「グッドバイ」や、シングルB面に収録されている歌詞のない/少ない「montage」「multiple exposure」のように、彼ら自身の想いが入っているものの大衆にはウケづらい曲=【マイノリティにウケる曲】
のどちらも存在する、もちろんその間のグラデーションにも曲は沢山存在するが!
多分、サカナクションが大衆受けとかを考えないで自分たちの好きな曲だけを作っていたら、紅白やMステに出ることなくアンダーグラウンドの世界に深く入っていくだろう。
だから彼らは、自分たちの好きな「マイナーな」音楽に過去の音楽を混ぜたり、JPOPの要素を入れたり、色々な実験をしマーケティング戦略を立てながら作為的に曲作りをすることで、マジョリティにも受ける「新宝島」のような曲を世の中に表してきた。
「モス」の歌詞は、その「マイノリティ」の立場にいるサカナクションというバンドの葛藤を表しているとも言える。
しかも、「マジョリティ」に受ける曲調で!
ちなみに、この葛藤ソング「モス」にも、レコード大賞お墨付きのザ・大衆ソング「新宝島」にも共通する歌詞が「連れてく」。
新宝島のサビの歌詞は「このまま君を連れてくと」、マイノリティの最後の方の歌詞は「連れてく蛾になるマイノリティ」、
私はこの2つの「連れてく」が同じ意味だと思っている!
どこに連れていくのか?
それこそ、メジャーではない、もっと広い音楽の世界ではないだろうか?
サカナクションを起点に、アンダーグラウンドで深くて未知の音楽を知ること、つまりサカナクションの曲が、未知の音楽が広がる「マイノリティ」の世界へ連れていってくれると私は思っているよ!
まとめるぞ!
②一般には受け入れられづらいマイノリティの気持ちを表した歌詞、それを①マジョリティにウケるキャッチ―なメロディで歌っている。
この構図が、現代の音楽シーンにとってマイノリティである彼らの反撃であると言えるんじゃないだろうか。
フェスで盛り上がるような曲調を意識して作られていることから、彼らがステージ上で「マイノリティ」と歌って観客が盛り上がる姿は、彼らマイノリティにとっての一つのカウンターパンチ!と取れると私は思う。
ではでは、もっと面白くするぞ。
③ミュージックビデオ
サカナクション「モス」https://youtu.be/123BD9U5FIk
…………………
……………なんじゃこりゃ………
……ほぼ、静止画やんけ………………。
ここまで来たらもう分かるか!
そう、このミュージックビデオ、明らかに「マイノリティ」向けである。
あんな派手なドラマのタイアップで、Mステでワイワイ歌ってた「モス」のMVこれなの!?
→これが最後のネタバレである。
どんなネタバレ?
「サカナクションのやりたいことはこういうことだぞ!」っていうネタバレ。
曲を聴くときに歌詞をあまり気にしない人ですら、このMVを見れば「あんなに明るい曲調で何でこれなの!?」となるに違いない。
この「違和感」こそ、サカナクションのやりたいことだと思う。違和感の正体は先に述べた彼らのマイノリティ性に繋がる。
ミュージックビデオを耐えて耐えて……最後まで見ると、本当に最後!「繭割って」出てきた山口一郎がドアを開けた先で、女性が出てくるのを見られると思う。
厳密には女性ではない、
彼女/彼は、「性別のない」モデルの井手上漠さんだ。
何でこの方が登場するのか?
そこで、サビで何度も繰り返される「マイノリティ」との関係に引っかかる人もいるかもしれない……
「マイノリティ」という言葉には、もちろん色んな意味がある。
山口一郎さんはこの「モス」という曲の歌詞を書くにあたって、性的とか、民族的とか、色んなマイノリティのことを調べて調べて調べていた、のをラジオとかで知った。
そして、彼がレギュラーを務める東京FM「スクール・オブ・ロック」では、「マイノリティ相談室」と題して、マジョリティの中で何かしらの悩みを抱えるマイノリティの生徒(この番組内ではリスナーのことを「生徒」と呼ぶ)からの相談を受け付けている。
本当に、毎回すごく良いので、そっちも興味のある人は是非チェックしてみて欲しいな!
サカナクションのことになると、どうしても書きたいことが沢山になってしまうので、今回はここまでにするぞ!
他にも「違和感」だらけの、そこにしかけがある曲が沢山のサカナクション、これからも紹介していきたいと思っています、
以上だ!!!!!!!
未来の鍵を握る学校SCHOOL OF LOCK! サカナロックス掲示板 2019.6.14「サカナクションのニューアルバム『834.194」を半解剖!」
https://www.tfm.co.jp/lock/sakana/index.php?itemid=13144
マイノリティ相談室
https://www.tfm.co.jp/lock/sp/template/artist18/homework/form_190412_02.html